蒼-9
引け四つの拍子木が鳴り、宴も終焉を迎えた。座敷の隣には布団が用意され、とき葉は着替えをしてくると一之進に告げると、一之進は意外な事を口にした。
「とき葉、湯に入らないか。なぜか体が冷めてしまったようだ」
「はい、ではすぐに湯の用意を」
とき葉は、眠そうにしていたこはくに湯の用意をするように頼むと、こはくは座敷を出て、廊下の奥にいた喜助にむかって
「喜助どーん、湯をやっておくれ」
と甲高い声で言っているのが聞こえる。
「まぁ、こはくったら。あんなに大きな声で」
「よいではないか、こはくは素直な子だ。とき葉はこはくがかわいいか?」
「はい、私はあの子が自分の年の離れた妹か子どものように思えてなりません。ただし、禿となってきたからにはあの子も何か由があってここへ来たのでしょう。ならば、ここで生き抜いていけるように私はこはくをきっちりと一人前の女へと育てねばなりません。行儀見習いだといって、都合良く使われて、禿に八つ当たりをする者もおりますが、それはここではよくあること。そんな理不尽なこともこはくの先の力になるでしょう。」
「こはくはつらがっておるか?」
「いいえ、私にはそんな顔は微塵も見せません。でも寝る時分になると布団に顔を引っ込めてじっと起きていることがあります。こはくは縁あって私の元に来た禿ですから、私がこはくをかばい、かわいがらねばなりません。十にも満たない子どもに楼のしきたりや慣れごとは少々きつすぎます。私がこはくの逃げ場となり、信頼に足る人間として存在しなければ、あの子の素直さは失われてしまいます」
火鉢の炭をつつきながら、とき葉はこはくのことを切々と話した。きっと自分がここへ来たときの気持ちを思い出しているのだろう。互いに様々な思いが頭の中をめぐり、しばらくの沈黙が続いたとき、こはくが座敷に戻ってきて、湯の支度が整ったことを告げた。
「こはく、先におやすみ。今夜は少し冷えるから、余分に着て寝なさい」
「あい、お先に」
深々とお辞儀をして、こはくは座敷を出た。そんなこはくを見て、一之進は宴の席でとき葉に過去を訊ねたことをますますすまないと思った。
「こはく、今夜はゆっくりと寝られればよいが」
「さあ、湯に参りましょう。あの子なら大丈夫です、今日はお菓子も頂き、あのようにはしゃいでおりましたから疲れてよく寝られます。それに芯の強い子ですから」
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