蒼-8
座敷には台の物が運ばれ、三味線を持った男衆と芸者が座敷に入って来た。とき葉は白地に極彩色の鞠の模様の袷に黒い緞子の帯、格子模様に菊の柄の赤い打ち掛けに着替えていた。情を交わした後のけだるい様子もなく、さすが幼い禿のころから鍛えられているだけあって新鮮さすら感じさせるほどに華やかな雰囲気だった。
芸者が三味線をかき鳴らし、こはくが楽しそうに手遊びをする。一之進は
屏風の前にとき葉と並んで、そんな様子を眺めていた。
「なぁ、とき葉。おまえも幼いころはこのように遊んでおったのか?」
「はい、ここに来てからしばらくは、このこはくのようにいろいろな手習いをし、作法見習いをしておりました。無邪気なものです…これ、こはく。おまえもこちらへ来てお上がり」
一之進が聞きたかったのは本当はそんなことではなかった。とき葉がどこで生まれ、どのようにここに来たのかは初めて会ったときから気になっていた。
「…ここに、来る前のことは覚えておるか」
とき葉は笑みをたたえながらもきっぱりと答えた。
「はい、つまらない話でございます」
一之進は少しすまない気持ちになった。ここへ好んで来る女などいない。すべての女が借金を背負わされ、あるいは親に売られ、金というものに縛られて閉じ込められているも同然の生活をおくっているのだ。
「すまぬ。許してくれ」
「謝るとこはありません。私こそ不躾なお返事をいたしました。お許しください」
とき葉もここに来るには相当の苦労があった。しかし、人に話したところで過去は変わらない。一之進がとき葉の話を聞けばおそらく同情するであろう。客ならば同情をひく話のひとつでも打っておけばよいが、とき葉は一之進が自分の過去を聞いてつらい気持ちになるのが嫌だった。
太鼓持ち(幇間)がおかしな踊りを披露して、わざと転んだり滑ったりして笑いをとっている。
「もうひと月もすれば、桜も咲くだろう。今宵は暖かいな」
そういうと、一之進は盃の酒を一口あおった。
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