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蒼-7

「あ…あっ、早く来て…」
羞恥に狂い、奥ゆかしく自分をねだる時、一之進はこれほどとき葉を愛おしいと思うときはない。盃を投げ出し、とき葉の肩を掴む。
「とき葉、わたし以外の男にはそんな姿をみせないでおくれ…おまえはわたしのものだ」
とき葉の両手を戒めていた腰紐をするすると解き、腰を抱いてとき葉を横たえさせ、とき葉の上に覆いかかると二人は熱く契りを交わす。楼の女が男よりも先に絶頂を迎えるのは恥とされていたが、とき葉は一之進の熱い突進を全身で受け止め、体を大きく反らす。
「あぁっ…もうだめです、もう…」
一之進の背中に手を廻し、とき葉の手には力がこもる。白い足はわずかな痙攣を見せ、とき葉は深く息を吐いた。
「逝ったか、とき葉」
一之進も息を弾ませながら、男冥利につきるとばかりにとき葉をきつく抱きしめる。今度は自分が下になり、とき葉を腰の上に座らせて手を繋ぐと、とき葉は一瞬観念したような表情を見せ自ら快楽に落ちていくように腰を動かす。
「とき葉…綺麗だよ…顔をよく見せてくれ」
「…られません…見せられません…あなた様以外の…人にはこんな…」
「そうだよ…わたし以外の男には、こんなに乱れないでおくれ…さぁもっとよく見せるのだ」
二人は絶頂の時を同時に迎えようとしていた。遠くで寺の鐘の音が聞こえる。

何刻か経った後、まどろみの中にいる二人は物音に気がついた。先刻、菓子を買いに行った禿のこはくが部屋に三方をそっと運んできたのだった。
三方の上には、青山庵の伊勢最中がちょこんと二つ並べられていて、黒文字が添えてあった。
すっかり日は沈み、細く開けた障子からは紺色の空が見えた。
布団の中で両手でしっかりととき葉を抱いたまま、一之進はこはくに微笑みかけ礼を言う。
「ごくろうだった。ついでに茶を入れていってくれるか」
こはくは無言でこくりとうなずき、火鉢にかけられた鉄瓶の湯で茶を入れる。とき葉もそれに気づきこはくに声をかける。
「こはく、おかたじけ。お前も茶を飲んでお行き」
こはくは幸せそうな二人を見て、照れくさそうにしながらもうなずいて茶をもう一つ注ぐ。とき葉はゆるゆると一之進の手をほどき襦袢の襟を合わせて布団から出る。
「おまえの名はこはくというのか?良い名だな」
一之進はこはくに話しかける。菓子を買いに遣わされる前とはすっかり違い、こはくの緊張は解けている様子で、きちんと一之進に茶を差し出す。
「あい、お先にちょうだいしました」
よほど菓子がうれしかったのか、こはくは思い出したようににっこりと笑う。
「こはく、口の周りに餡がついたままですよ」
姉のような口ぶりでとき葉が真剣に言うと、こはくは慌てて袖口で口をこする。一之進ととき葉は顔を見合わせて笑うと、一之進が口を開く。
「とき葉も人が悪い、餡などはなからついてはおらぬ。こはく、腹は減らぬか?もう夕の食事の時間であろう」
夜見世を知らせる拍子木が鳴った。禿の食事や着物はすべて、その面倒を見るとき葉のかかりになっているので、とき葉に客があるときは先に食事をすることはない。楼主の居室である内所では、少しの白飯と香の物くらいは貰えるが、とうてい満足するようなものではない。
そのとき、楼の二階を仕切る男衆の喜助が襖の向こうから声をかける。
「旦那様、台の物をおとりいたしましょうか」
どこの楼でも、二階を取り仕切る役目の者は喜助と呼ばれ、部屋の様子を知られぬように把握して、適時よく声をかける。台の物とは、仕出し屋やそば屋が運んでくる食べ物のことを言う。
「頼んだよ、豆腐を温かくあつらえてくれ。こはく、食べたい物を頼んでおいで」

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コメント

こんばんは。
ずいぶん進んでいてびっくり。長編になるのかな?続き楽しみにしてます!!

投稿: わか葉 | 2009年2月 4日 (水) 22時22分

わか葉さん、ありがとうございます。
いろんな意味で、きっと読んでびっくりされているでしょうねcoldsweats01
めげずにぜひ読んでやってください。

投稿: とき葉 | 2009年2月 5日 (木) 21時21分

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