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蒼-1

 楼の二階の窓の手すりに腰を掛け、とき葉は煙草の煙で輪を作って遊んでいた。昼見世の時分だとい うのに、気分がすぐれず自分の座敷から通りを見下ろしながら。
 そしてまぶしいほど雲が白く、空の青さにひときわ映えているのを見て、子どものようないたずら心で煙草の煙で雲を真似しようとまんまるに口を開けて煙を吐いていた。

「とき葉姉さん、一之進様お上がりです。」
 襖の向こうで禿の幼い声がした。とき葉はその声を聞いた瞬間、うれしそうに立ち上がり、襟元に手をやり整えて、裾を軽く手で払いいそいそと言った。
「おまち、炭をもってきて」
 ひときわ明るい声で襖の向こうに声をかけ、煙管の灰をとんと捨て、鏡台に微笑みかける。紅を差そうと貝を手に取ったが、思いついたようににっこりとして紅を置いた。
 …一之進様には、紅を塗った姿よりもこのままの私の方が好いていただける。
 禿がそそと座敷に入り煙草盆に形の整った炭を据え、茶の用意をする。それを一瞥すると、とき葉は屏風の前に座り一之進を待つ。屏風は一之進がとき葉の馴染みとなった時に贈ったもので、漆の夜空に銀蒔絵の星、雲母を粉にした白で桜を描いた、派手さのない色味が重厚さをいっそう引き出している逸品であった。

「お上がりになりました」
 禿の声とともに襖が明き、ささやかな衣擦れの音とともに一之進が入って来た。
「とき葉、機嫌はどうだい」
「ようこそおいで下さいました。今日は空がまぶしく、私には何もする気がありませんので、遊んでおりました」
「はは、そうかそうか。それでは女将に角が生えることであろう。わたしも一緒に叱られてやるとするか。何をして遊ぶのだ」
 そういうと一之進はとき葉の横に腰を下ろした。普段からとき葉は、一之進や数々の上客のおかげで多少のことは楼主や女将からはうるさく言われることはなかった。今日とて何もせずとも一之進が登楼してくれば楼として何も叱ることはないのだが。
「まずはお茶を」
 そう言ってにこやかに笑うと茶を入れようとしたが、一之進が制した。
「今日は酒でも飲むか、とき葉はどうだ?どうせお前も遊んでおったのだろう、つき合っておくれ」
 楼に登る時は酒もあまり飲まずに、とき葉と話し込むのが常なのだが今日は違った。
「どうしました一之進様、いつもは酒などはお飲みになりませんのに」
とき葉は手をとめてまっすぐに一之進の目の奥を覗き込んだ。もしも一之進の身辺に何かあったら、嫌な事があってそれを誰にも漏らす事ができぬとか…とき葉は一瞬にして心配になった。

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